社長の部屋CEO's ROOM

06.講義講演録

零細ベンチャーの海外進出

2000.08.11

 私は、松橋町でプレシードという創業10年になる会社を経営しています。本題に入る前に、会社の概略を説明しておきたいと思います。最近のベンチャーブームの中で「熊本のベンチャー」ということでよく紹介されたりしていますが、実際何をしている会社かというのはあまり伝わらないようです。ある人は医療機器を造ってる会社だと言うし、ある人は変わった靴箱を作っている会社、またある人はコンピューターソフトを造っている会社と言う人もいます。全て間違いではないのですが、実体の5分の一も表してはいません。一言でいえば色々な機械を造る会社としか言い様がありませんが、工場で使われる製造装置、組立装置、検査装置などを設計して創り、目的を達成する形に仕上げて納入するのを生業としている、苦労だけは多い会社というのが私の会社です。ドラえもんのようにいつも「あんな事こんな事出来たらいいな」と子供のころから夢ばかり見ているうちに大人になりきれず、今も「世の中に今ないものを作り出す。」ことにこだわり続けている少年、いや中年です。

 私は元々、一介のエンジニアでして、経営も営業も財務も全くの素人、ましてや社長になるための教育も資格試験も受けたことなく社長をやっています。社員には申し訳ないとしか云いようがありません。会社創業10年経った今も装置の開発能力以外は全くお粗末な会社でして、よく学校のクラブ活動より生産性が悪いなどと指摘されています。ベンチャー企業というのは私にとって、ひとつのこと以外全くひ弱な会社というのと同義語に感じます。急成長を続けるSのような会社は例外中の例外。実体はいい物を生かしきれずに低迷している会社、或いはひとつ大当りした後の経営がお粗末で後発企業に負けてしまった会社などの方がはるかに多く、ベンチャーのグラウンドは死屍累々の世界といえます。

 さて、そのような中にあって、まだ日本はおろか、この熊本にさえ確固とした基盤を持たない零細ベンチャーが何を血迷ってアメリカに会社を作るなど馬鹿げたことをやってしまったのか、設立一年の報告もかねて色々考えたり経験したりした事を少しお話したいと思います。現在、5、6週間に一回アメリカへ通う暮らしを続けながら色々と経験を積んでいます。役に立つお話は出来ませんが、笑い話にはなるかも知れません。

 私は子供のころ西部劇と「名犬ラッシー」を見て育った世代でして、アメリカには妬みと憧れという屈折した気持ちを持っています。そのアメリカにも3年前までは一度も言ったことがありませんでした。遠くて大きくて世界を我が物顔にのし歩いている国といった見方しかありませんでした。ところが2年前、知り合いの経営者が西海岸に拠点作りするのに同行し初めてアメリカの土を踏みました。たまたま、そこがロス・アンジェルスだった為、その大きさと喧騒と活気に圧倒されたのを覚えています。その14ヵ月後には全く場所も環境も違うオレゴン州ポートランド近郊に現地法人を設立していました。我ながら余りのせっかちさと計画性のなさにはあきれ返るばかりです。逆にそのくらい私を魅了したものがアメリカにあったのかもしれません。日本で聞くアメリカは治安が悪く、いつピストルの弾が飛んでくるか分からない国、何でもすぐに裁判になってしまう国、貧富の差が大きい国等など悪いイメージも多い国です。然し、現実は熊本の事を知ってるつもりのアメリカ人が「熊本は活火山が有り、いつ噴火して災害に遭うか分からない、地震でいつ死ぬか分からない、おまけに馬を殺して生で喰う野蛮な国。」などいうのに似ているのではないでしょうか。嘘ではないが決定的なことではないということです。とにかくいくつか問題があるのも事実ですが、それより米国市場の魅力について考えてみます。

 まず新参者に対して常に門戸を開いてくれる。過去の実績でなく現在の能力で正当に競争に加えてくれることは、歴史や資産のない我々には非常に嬉しい事です。その代わり契約にはエネルギーを要します。
第2にルールの国だということ。見知らぬ人たちが集まって成り立っている国であるが故、社会生活のルールから法律まで日本人には煩雑に感じることも有りますが、ルールを守っていれば守られる。賄賂や既得権を持った者達で社会が動かされることもないようです。社会そのものがフェアプレーを求めているようで、権力を排除しようと動いているのを感じます。ルールを明確にして世界中で自由に競争しようというのはアメリカなりのひとつの正義だと思います。

 第3にエンジニアやベンチャー企業など新しいことに取り組むことに高い評価をし、そのコストを認めてくれることです。技術開発を社是とする我々には大変魅力的です。最初に事を起こすパイオニアに対しての評価は、部品代の合計で作った物を評価する基準にしようとする日本との違いは隔世の感があります。これらのことが今の、ベンチャー企業が引っ張るアメリカ経済を作っているのではないでしょうか。常に変化と新しいものを求め、失敗してもそれをひとつの経験とプラス評価する国が、今の日本より活気に満ちているのは仕方ないことかもしれません。確かに平均では日本人の能力が米国人のそれより優れているかもしれませんが、平均に意味のない国がアメリカだと思います。能力がある人間、努力する人間に常に可能性が広がっている国です。

 そうは言いながらも全く知らないアメリカに会社を創ることは、さすがに勇気も必要でした。資金もなく取引先もなく、強い人脈もなく市場調査もろくにせず、2、3回アメリカに行っただけで会社をつくろうなどやはり無謀と言われても仕方ありません。然し、それに勝るものが夢でした。技術の世界においてアメリカで通用すれば世界で通用する、熊本の片田舎から世界を相手にビジネスをやってみたいという夢。未経験の世界で、まだ知らない人たちと仕事をしてみたいという夢。これらが恐怖に打ち勝ってしまったのです。後はどうやって事を安全にスムーズに進めるかを考えるしか有りません。資金にゆとりがある訳でなく、人材に目星がついている訳もなく随分考えました。特に大きな初期投資をどう避けるかと、現地の状況に強く英語と日本語に明るいスタッフを探すことが重要なテーマでした。

 幸いなことに、ある日系企業が会社の事務所と工場の一部を賃貸ししてくれることになりました。右も左も分からない状況の我々にはまさに天の助けでした。この一年、軒先を借りて色々なことを大きな失敗もせずに学ぶことが出来ました。会社運営に必要な法律や習慣のことから、人脈、営業的な紹介まで、当初もくろんでいた事はほとんど身に付けることが出来ました。しかし、この会社は今年7月アメリカを撤退していきました。この1、2年で近くの日系企業がいくつも撤退したり売られたりしてなくなりました。景気がいいアメリカとは言いながら、常に厳しいビジネス環境であることも事実です。我々もまだやっとマーケティング段階が終わり本格的なビジネスに入った段階で決して楽観できる状況にはありませんが、アメリカでビジネスを立ち上げながらグローバルスタンダードな環境に適合する能力を身に付けていくことに生きがいを感じています。厳しさの中に本物になって生き残るチャンスも在るような気がします。

 熊本の弱小企業だから熊本の中にだけ生き続けねばならない筈は有りません。今、世界は大変革の中、10年前には大変なことだったことが簡単に出来てしまうようになりました。アメリカとの通信、物流も実に安く早くいろいろな方法で出来るようになりました。今だから熊本の小さな企業にも世界中の企業と仕事が出来るということを社員たちにも示したかったのも有ります。自分で自分の夢に制限をつけたくありません。まさに身の程知らずで生きること。大変きつい仕事であり、何時もワクワク出来ること。そういう会社でありつづければ本望です(社員がそう思っているかどうかは別ですが)。

 最後にプレシードアメリカがあるオレゴン州のことと、この一年感じた日米の文化習慣の違いについて時間の限り。

 地理・歴史的背景、人種構成、産業、人口

 
 自己責任、平均のない国、クレジット社会、セクハラ、訴訟社会、平等社会、脱工業社会

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