週末、古い友人夫妻と我が家で会食した。学生時代に私の部屋に掲げてあった木製の壁飾りに【努力、人生とは重荷を背負いて、遠き道を行くが如し】と書いてあったのを見て、「『根性』とか『努力』とかいう言葉は押しつけがましくて大嫌いだ。」と言って、お互い大いに共感し合った仲間だ。
当時は時代が高度成長期直後で、「巨人の星」を始めとするスポーツの根性モノや田中角栄の立身出世や小説「どてらいヤツ」などの根性モノが全盛時代だった。その壁飾りも親せきが旅行のお土産で呉れた有難迷惑なものだった。
その昔の二人のエピソードを話題にしたら相手のT氏もよく覚えていて、「そうそう、憶えているどころか、数日前にその思い出を我が家で話したところだった」と大笑いとなった。
あれから50年近い月日が流れた。そういう生き方の二人だったから当然、当時は人生に前向きな努力をしてはいなかったし、その後はお互いが回り道をしたことは否定できない。しかしその後二人とも思いを改め真面目に生き抜いて今は晩年近くなったが、人から非難されるような人生でなかったとは断言できる。悪い事、卑怯な事、いかがわしいことはして来なかった二人というのは共通の密かな誇りかもしれない。「粗にして野だが、卑ではない」という言葉が合うかもしれない。
その当時の二人から今の自分らをとても想像できなかったが、時間だけは50年の歳月が流れた。決して「努力」や「根性」という言葉を好きになった訳でもなく口にして来きたわけでもない。只、振り返れば二人ともあまり平均的ではない其々の道で、結果として一生懸命に努力はして来た。決して苦痛ではなく、むしろ生き甲斐の仕事を育てて来た。それが「努力」という言葉になってしまうのであればそれもいいだろうとお互い納得した。
その後、世の中は「モーレツからビューティフルへ」と言われるような安定と平均志向となっていったが、我々は時代錯誤で「24時間闘えますか」というようなキャッチコピーが似合う生き方だったのかもしれない(笑)。
50年前のぐうたら生活の思い出を語り、大いに腹を抱え笑いあったが、人生に「もし…」があったら果たしてどうなっていただろうか。「もし、あの頃、グウタラでなく、高校、大学と勤勉な時代を送っていたら…」、逆に「もし、あの頃のままグウタラ生活をあのまま10年以上続けていたら…」、どちらも今の私ではなく、勿論想像は難しい。
もし前者であれば私は大学や公設研究機関で真面目な研究者となっていたろうか。私は子供の頃はそれが憧れだった。それとも、もっと成長著しい会社を創業していただろうか。
そしてもし後者であれば、世の中を非難ばかりして出遅れた人生を心で呪いながらも、口では自分の生き方を肯定的に独りよがりに語っていたろうか…。それとも逆に出遅れた10年を取り戻そうとして、今まで生きて来た人生より更に激しく走って、いまより安定した成功への道のゴール間近となっていたろうか。
人生に「もし…」はないというが、二人は酒で盛り上がりながら昔を語り合ったひと時だった。今ではこの二人が努力こそ人生の醍醐味というような事を、我が身を振り返りながら、心から思うようになった。
私が外から見て努力という言葉に合うであろう生き方を始めた時は既に26歳になっていた。もし、これが高校入学後、そのまま勤勉な人生に入っていたのであれば果たして私の人生はどの様なものになっていただろうか…、今でも時々思うことがある。決して後悔や否定ではないが、違った生き方であったのは間違いない。
蛇足:
いまは穏やかな時代となった。働き過ぎないように、休みをシッカリと取るように、と政府が奨励している。しかし、途上国などにはガムシャラに働いて豊かになりたいという若者が溢れている。彼らと同じ市場で出逢う時代となった。互角に渡り合える自信を今の主力世代は持ち合わせていると言えるだろうかと、他人事だろうがふと不安に思ってしまう。
2019.4.14記す
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